クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー だれもが文化でつながるプロジェクト

「関わる人と一緒に進める、映像の世界の情報保障」入江拓也さん、二瓶剛さん、吉田裕一さん(株式会社SETENV)インタビュー

2024年3月29日(金曜日)

  • インタビューシリーズ

関わる人と一緒に進める、映像の世界の情報保障

視覚や聴覚に障害のある方に対する接遇時のポイントをまとめた再現映像や、受付で使える手話をまとめた映像を、クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョーのYouTubeチャンネルで公開しています。本映像は、公益財団法人東京都歴史文化財団の研修で活用され、また、文化施設や文化事業の担い手にとっても参考となるように制作されました。
映像を制作したのは、株式会社SETENV(セットエンヴ)。障害のある人への情報保障にはじめて取り組んだオンライン「TURNミーティング」の経験や、今回の研修映像の制作を経て得た学びや気づきなどを、SETENVの入江拓也さん、二瓶剛さん、吉田裕一さんに伺いました。

制作された動画は下のリンクからご覧いただけます。
映像で知る文化施設のアクセシビリティ


「TURNミーティング」との出会い

画像 映像で知る文化施設のアクセシビリティ「鑑賞サポートの案内」より
映像のスクリーンショット。四角い画面の中心に鑑賞サポート情報と書いてある。画面右側に手話で話す人、下部に日本語字幕がある。

聞き手(以下、-):はじめに、SETENVさんの紹介と自己紹介をお願いできますか?

入江拓也(以下、入江):代表の入江です。SETENVは主に芸術文化関係や大学関係のウェブサイトの制作や運用、またイベントの企画制作などを20年以上続けている会社です。コロナ禍でリアルな場をつくることが難しくなったときに、オンラインで何かできないかというお話をいくつかいただいて、以前から映像関係の仕事を一緒にしていた二瓶さんに加わってもらい、2020年に映像部門を立ち上げました。

二瓶剛(以下、二瓶):映像の制作をしている二瓶です。大学で映像を学んで以来、ずっと映像制作の仕事をしてきました。SETENVに入る前は、テレビ関係の映像をつくっていました。美術関係の番組に携わる機会も多く、SETENVとは映像の仕事があるときにこれまでも付き合いがあったところ、映像部門を立ち上げるということで、社内に入って一緒に仕事をすることになりました。

吉田裕一(以下、吉田):吉田と申します。SETENVに入る前は、看板やディスプレイを制作する業界で働いていました。二瓶さんの一年ほど後にSETENVに加わり、現在は一緒に映像部門を中心に仕事をしています。

ーSETENVのみなさんにはじめて映像で関わっていただいたのは、アーツカウンシル東京が主催するアートプロジェクト「TURN」のプログラム「TURNミーティング」でした。コロナ禍で、ゲストとトークセッションを繰り広げる本イベントの実地開催が難しくなった2020年9月。初のオンライン開催となった「TURNミーティング」の配信をSETENVさんにはご担当いただきましたね。

入江:映像部門を立ち上げたすぐ後にお話をいただき、様々な試みを一緒にさせていただいたことは、とても大きな経験になりましたね。

二瓶:映像に関わる仕事の中で、様々な職種を経験してきたのですが、オンライン配信の会社にいたこともあったんです。テレビだけではなく、配信を経験してきたことも、「TURNミーティング」の仕事には活きたかなと思っています。


ー今回映像制作を引き受けてくださった動機などあれば伺えますか?

入江:これまでイベントの現場などで多様な方たちと一緒に働くなかで、情報保障の大切さを感じ、ひとつひとつのコミュニケーションプロセスそのものがクリエイティブだと思ってやってきました。二瓶さんが入って映像部門を立ち上げ、ちょうど映像に関する仕事を引き受けることができるタイミングでもあったということ、さらに関わることで僕たち自身が変わる可能性があるような、挑戦できる仕事になるだろうという予感もありました。

二瓶:僕は情報保障に本気で取り組もうと明確に思ったときのことを覚えています。ろう者の方の話を聞くなかで「いわゆるテレビの中の手話ワイプは小さく出ているが、アンフェアだ。私たちからしたら、話者と同じぐらいのサイズで映っていなければおかしいのに、小さく四角で区切られている」と聞いたときに、僕は「考えたこともなかった」と思って、すごく心を動かされたんです。その時に「TURNミーティング」に取り組むことは、映像の世界における情報保障を変えていく一歩になるかもしれないとやりがいを感じました。



「TURNミーティング」を通して気づいた、相手を受け止めることの大切さ

画像 TURNミーティングでの配信セットの様子
TURNミーティングの配信を収録している様子。左側にカメラなどの撮影や配信の機材とスタッフがいて、右側にそのカメラに向かって手話で話す人がいる。

ー「TURNミーティング」の配信を初年度3回お願いし、翌年も一緒に取り組んでいただくことになりました。ライブ配信だったために配信を管理する人の他に、アクセシビリティの観点から、手話通訳者やバリアフリー活弁士が入るなど関わる人も多かったですね。またコロナ対策で出席者の部屋を分ける必要があったために、カメラの台数も多く、撮影も大掛かりでした。具体的にどのような情報保障の対応をしましたか。

二瓶:リアルタイムの手話合成と、UDトークをベースとした字幕表示。さらに字幕が間違っていれば、リアルタイムで直す、ということをしました。スタジオで話している人はどうしても早口になってしまうのですが、手話通訳の方からゆっくり話してほしいというお願いがありました。リアルタイムの配信で、どうやって見やすい映像をつくるかということを、話し合いながら追求していました。

ー「TURNミーティング」に関わる中で、どのような気づきがありましたか。

二瓶:
何回か実践を重ねるうちに、「どうしてリアルタイムの配信にこだわるのか」という意見をいただくことがありました。
僕らは、障害のあるなしに関わらず同じタイミングで配信を共有することが特別な体験だと信じて疑わなかったのですが、もしかしたら見やすいように編集したものを後から見た方が心地よいと感じる人がいるかもしれない、ということにその時に気づいて考えさせられました。人はそれぞれ考え方が異なるし障害の特性によっても感じ方が違う、ということをわかったつもりでいましたが、まだわかっていなかったんだなと思いました。

ー事前に編集したものを公開するという形はどうかという議論は結構長くありましたね。様々な立場の方たちと一緒に場をつくるために、話し合いながら柔軟に対応していただきました。
情報保障に関しては、はじめて対応したとのことですが、どのような体制で情報保障をつけた配信ができるようになったのですか。

入江:アーツカウンシル東京のウェブサイトやTURNのウェブサイトに関わっていて、プログラムの全体像を把握していたことがまず背景にあります。アーツカウンシル東京の職員の方に間に立っていただいて、情報保障を必要とする方や手話通訳の方と直接やりとりすることができました。繋ぐ人がいたからこそだと思います。

二瓶:手話通訳の方から、モニター位置の高さや大きさについてリクエストをいただくことがありました。必ずしも理想に近いものをこちらも準備できるとは限らないのですが、通訳の方からすると切実な問題で、こうした対応にちょっとした意識の差が現れることを感じました。最善を尽くしているつもりでも理解がなければ、「尊重されていない」と感じられても仕方がないということがわかりました。

入江:相手を受けとめることができるかどうか。そういう本質的なところに気づかせてもらった現場でしたね。それはTURNというプロジェクトが当事者の方と一緒につくりあげてきたプロジェクトだったからだと思うんです。想像以上に大変ではありましたが、関わることでそれぞれの強みが活かされて、得るものが多かったです。




研修映像の制作プロセス

画像 「
映像のスクリーンショット。二人の人物が手話をして見せている。その下に③チケットはお持ちですか?と書いてある。左側にいる人物は日本手話、右側にいる人物は国際手話でチケットはお持ちですか?という手話をしている。

ー今回はクリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョーの研修映像をつくっていただきました。特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワークが編集した「観劇サポートガイドブック」という視覚や聴覚に障害のある人への劇場での接遇対応について書かれた冊子をベースにしています。視覚や聴覚に障害のある人それぞれの意見を聞きながら、冊子に載っていないシーンも入れました。
映像制作はどのようなプロセスで進めたか、教えていただけますか。

二瓶:お話をいただいた段階で、企画の趣旨はある程度固まっていました。アーツカウンシル東京と僕らの間で構成のやりとりを進め、出演者のみなさんのコンセンサスを得て、まずインタビューの撮影から始めました。その後再現シーンや資料の撮影をして、一本化作業を行いました。ほぼこの長さで行こうという映像ができた後に手話とナレーションの収録を実施し、映像に当てて、基本的な完成形ができました。
そこからデザインやテキスト、長さの調整など細かい修正作業がありました。みなさんからのレスポンスを反映させて整えて、ということを繰り返してできあがりました。

ー当事者のフィードバックは構成の段階と台本、撮影した後があり

ノウハウをもとに、新しいガイドラインをつくりたい

ーその他に制作過程での難しさや学びがあったら教えてください。

二瓶:想定外だったのは、今回の映像は僕が今までつくってきたものの中で一番データが重い編集だったんですよ。文字量とレイヤーの多さですごく重くなってしまって。パソコンが重いためになかなか進行できなくて苦労しました。
また手話の撮影は機材が追加で必要になることもわかってきました。照明やモニター、映像を再生するパソコン、スイッチャー、確認用のモニター、モニターを立てるための脚など。さらに手話で話す方それぞれの感覚で、カメラのおいてほしい位置などが人によっても異なります。回数を重ねることでノウハウが身につきつつありますが、まだ新しいことに気づかされることがあります。

吉田:僕は入念に準備しなければと思っていたのですが、出演者の方にそんなにしなくても良いと言われて、丁寧にすることが必ずしも正解じゃないと気づかされました。

ーひとによって障害のグラデーションがあったり教育の環境も異なるので、情報保障に期待する度合いが違うということは少なからず出てくるかもしれませんね。

二瓶:また、構成段階のやりとりや確認のプロセスで時間がかかりましたが、もう少しスムーズにコミュニケーションを進める方法があったかなと思います。そのために、私からもアイデアを出せたらよかったなと思いました。

ー関係者が多かったため、立場の違う人を含めてどういう視野をどこまで入れるか時間のかかる議論でしたね。制作期間が5ヶ月と短く、時間が足りなかったためにコミュニケーションができなかった部分もあるかと思います。また、聴覚障害の方とのやりとりはメールベースでしたが、手話が第一言語で、日本語は第一言語ではないためにメールのやりとりが難しかった方もいたかもしれない。その部分をもう少し時間をかけて、お互いに知りながらやれたらよかったのかなと思っています。
最後に、組織や個人で変化があったことや、今後の活動について展望があったら教えてください。


入江:制作プロセスのステップや、このような機材が使えるというようなガイドライン、マニュアル的なものを志のある人たちと一緒につくることができたらと思います。そうしたものがあれば、これから情報保障を含んだ映像制作に取り組む人たちにも、イメージが共有しやすくなるのではと思います。

二瓶:アーツカウンシル東京のみなさんの情報保障に対する熱意や誠実さがとても素晴らしいと思っています。そこに応えていくのはときに大変なこともありますが、やりがいがあることです。一方で、他の現場に浸透させていくことも踏まえて、もう少しプロセスを簡易化できる部分がないか検討してみたいなと思います。

吉田:私はSETENVが「TURNミーティング」で配信をした2回目が終わったタイミングで入社したんですが、2回の配信を見せてもらったときに、手話合成が端っこではなく同じ枠内にいることが面白いなと思ったことを覚えています。今回の研修の動画もそうですが、情報保障を取り入れることで、新しいタイプの当たり前とか基準をつくることができるんじゃないかなと可能性を感じています。
また、今回の研修動画でろう者に演技をしてもらったのですが、現場で細かいニュアンスを伝えないといけないときに、少しでも自分で手話を使えた方が伝えやすいなと思って、できるところから手話の勉強を始めていこうかなと思っています。


実施日:2023年3月30日
聞き手:アーツカウンシル東京 事業調整課 社会共生担当 坂本有理、畑まりあ
執筆:福井尚子
※本記事の役職等は当時のものです