レクチャー&ワークショップ テーマ3「触察」
2023年11月10日(金曜日)
- 日時:2023年8月3日(木) 13時30分〜15時30分
- 場所:東京都美術館 ロビー階第4公募展示室
- 講師:大内 進(星美学園短期大学日伊総合研究所 客員研究員)
- 手話通訳:石川 ありす、山田 泰伸
目次
1)レクチャー:視覚に障害のある人にとって美術鑑賞とは
2)レクチャー:なぜ絵画を「手でみる」のか
3)レクチャー:絵画を半立体に翻案する理由
4) レクチャー:イタリア・アンテロス美術館の取組
5)レクチャー:「手でみる絵」の制作方法
6)レクチャー&ワーク:「手と目でみる教材ライブラリー」所蔵作品と補助教材にふれる
7)レクチャー:イタリアにおける「手でみる絵」の広がり
8)質疑応答
1)レクチャー:視覚に障害のある人にとって美術鑑賞とは
▲大内 進さん
テーマ3「触察」の講師は、東京・西早稲田で「手と目でみる教材ライブラリー」を運営する大内 進先生です。まずは大内先生から1時間ほど、視覚に障害のある人が絵画を鑑賞する意義やイタリアでの取組、絵画を半立体のレリーフにする際の原則と手法などについてお話がありました。
大内:私は盲学校で20年ほど教員をした後、1999年から国立特別支援教育総合研究所に勤め、視覚障害教育に関する研究や盲学校で働いている先生への研修、教育相談を担当してきました。研究でイタリアの調査活動を行ったところ、イタリアではアートを楽しむ機会がすべての人に保障されていて、視覚に障害のある人も積極的にアートに親しんでいることを知りました。私は、この状況を世界に広げるべきだと思いました。
日本では長い間、「目の見えない人は絵画を楽しめない」と思われてきました。盲学校にいる間はそれでいいかもしれませんが、卒業して社会に出るとさまざまな情報が行き交います。「見えないから絵のことに触れないでください」ではその人の世界は広がりません。社会としても全くインクルーシブではありませんね。彫刻作品のレプリカを展示するオメロ触覚美術館の館長で、ご自身も全盲であるアルド・グラッシーニさんの言葉を紹介します。
「目の見えない世界でも美的感覚というものがある。美術教育上そうしたことを扱うのは無理だと思われていたが、自分はそうは思わない。立体のものをさわったからと言って即、美的な感覚を呼び覚ますことは困難であっても、言葉で補いながら丁寧に経験を積んでいくことでそれは可能になっていくのではないか」。
私の言いたいことのすべてがここに凝縮されています。私たちは視覚でものを見ると、即座に「美しい」「心地いい」「怖い」といった印象が返ってきます。触覚ではなかなかそうはいきません。描かれている全体像を捉えるのは特に難しく、さわってすぐに「微笑ましい顔をしている」「美しい」とは感じません。最初に感じるのは表面がツルツルしている・ザラザラしているといった触感でしょう。すぐに美的な鑑賞に至れるわけではないのです。
ここが誤解されがちなところで、視覚に障害のある人が初めて「手でみる絵」や彫刻をさわったときは、「なんだ全然おもしろくないな、見える人はなんでこれが楽しいんだろう」と感じることが多いようです。触覚の特性上、さわることだけですべてを捉えるのは無理があります。でも、グラッシーニさんの言うように、言語で情報を補足してもらったり、ほかの人が感じていることを共有してもらったり、そういうことの積み重ねによって、美的な鑑賞は可能になるのです。
2)レクチャー:なぜ絵画を「手でみる」のか
大内:イタリア・ボローニャの盲人施設内にあるアンテロス美術館では、絵画作品を半立体的に翻案し、触覚を活用して作品を鑑賞する方法を編み出しました。
では、なぜ絵にさわる必要があるのでしょうか。それは、手でみることによって得られる作品の形式的表現と内容の価値は、思想の構造や空間と時間のカテゴリーの基礎となる文化的概念を共有するために不可欠だからです。単に作品を鑑賞するのであれば言葉で十分楽しむことができますが、背景にある思想や空間の構造を本人が納得いくまで確かめようとすると、言葉だけではどうしても曖昧なところが残ってしまいます。それを少しでもフォローするために、形にして示すのです。
そうした文化的機能のほかに、教育的・認知的機能もあります。手でみることは、鑑賞者の認知、感覚運動、精神運動のスキルの発達や熟達にも寄与します。視覚に障害のある人にとって、さわることは見ることに代わる活動です。形や大きさ、位置関係といった情報は、さわることによっても把握することが可能です。ですから、さわって絵画を鑑賞することは、手を使ってものを知る力の向上につながるのです。
ただ、色の情報はさわることでは得られません。「だから見えない人が絵画を鑑賞することは難しい」とおっしゃる方もいます。でも、見える人からさまざまな情報を得ることで、色を把握したり楽しんだりすることが可能になります。このように間接的に学ぶときは、情報の質だけではなく量も大事です。たとえばオレンジ色と言われたときに、オレンジ色に関する言語的な情報がたくさん頭の中に蓄積されていれば、豊かにイメージを描けるようになるはずです。
3)レクチャー:絵画を半立体に翻案[1]する理由
大内:先ほど半立体と言いましたが、平面上に線だけで翻案する方法もあります。でも、その方法では情報量が非常に限られてしまう。点字をイメージしていただければと思います。点は盛り上がっているけれど高さは均質です。さわる人には平面的、2次元的な情報が提供されているということになります。
3次元にすると、高さの情報が加わります。触覚は、高さの違いを精密に感じ取ることができます。たとえば、テーブルに髪の毛が落ちていたときに、手でふれると「髪の毛がある」とわかりますよね。髪の毛の高さは0.1ミリほどですが、それでもちゃんと識別できるのです。
だから、手で作品を見るときも、高さの違いがあるかないかで、得られる情報は大きく変わります。立体のほうが直感的にイメージしやすい。絵画作品を手でふれて見ることができるように翻案する際も、本来は3次元彫刻にしてしまったほうが情報は伝わります。でも、完全に立体にしてしまうと、それはもう絵画ではなく彫刻になってしまいます。ですから、絵画の性質を保ちながらわかりやすく翻案するには、2.5次元、半立体のレリーフにするのがいいのです。
盲学校では、まずはできるだけ形や内容がイメージできるよう3次元教材を使用して、最終的には2次元教材でもイメージできるようにすることが推奨されています。でも、学生の段階がそこまで行っていなかったり、内容的に平面では把握しづらかったりしたら、2.5次元教材を用意して3次元から2次元につなげる流れをつくります。こうした細やかな対応が非常に大事だと考えています。
[1] 既存の事柄の大筋を保ったまま新たに作り変えること
4) レクチャー:イタリア・アンテロス美術館の取組
大内:ここからはイタリアの取組について説明します。イタリアは、インクルージョンの分野においては世界に先駆けて色々なことに取り組んでいる国です。基本的には障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもは地域の小学校や中学校に通うことになっています。
今年2月にミラノへ調査に行ったとき、「みんなのための美術館」というムーブメントを知りました。知的障害のあるお子さんの学校外の生活をサポートするNPO法人が中心となり、イタリア各地の美術館35館と連携し、知的障害のある人が美術作品を楽しめるよう、サイン言語や紙芝居を使って作品を解説するような取組を行っているのです。こうした取組が特別なことではなく、当たり前のような雰囲気がイタリアにはあります。そういう環境なので、視覚に障害のある方の美術鑑賞もやりやすいのだろうと思います。
イタリアの文化的背景をお伝えしたところで、アンテロス美術館について詳しく紹介します。1999年に開設された美術館で、『ヴィーナスの誕生』や『モナ・リザ』など、ルネッサンス期の絵画を中心に50点ほどの作品を「手でみる絵」に翻案して展示しています。
かつてはイタリアでもシンプルな凸図が中心でしたが、先ほどお伝えしたようにそれでは空間構成や絵画の構造的特徴まで迫ることが難しいので、アンテロス美術館では浮き彫りの技術を活用し、平面絵画を半立体的に浮き立たせて翻案する方法を開発しました。これにより、人物や事物をよりリアルに、遠近感や奥行き、三次元的な広がりも含めて表現することが可能になりました。
「手でみる絵」の構想は1994年頃に始まりました。学芸員のロレッタ・セッキさんを中心に、視覚障害者の協力のもと、ボローニャ応用彫刻研究所、ボローニャ大学、サント・オルソラ病院視覚病理科の医療スタッフ等によって研究と作品制作が進められています。それぞれの作品には、様式や概要、美的価値等、背景知識を養うための点字や音声による目録も用意されています。
この美術館では視覚に障害のある人だけでなく、すべての来館者がさわって鑑賞を楽しむことができます。美術館では、幼稚園児が来ていたり、小学生が社会科見学していたり、重度の障害があるお子さんが学校の先生と一緒に作品を鑑賞していたり、色々な人を見かけます。見える子も見えない子も一緒にタッチツアーを経験し、さわったものを粘土で再現する活動もしています。
これは見えない子だけではなく見える子にとっても基礎的な力を養う機会になりますし、聴覚障害など視覚障害以外の障害のあるお子さんにとっても、セラピーや療育を兼ねた鑑賞機会になっています。
5)レクチャー:「手でみる絵」の制作方法
大内:絵画を「手でみる絵」に翻案する際の原則は4つあります。
1、圧縮による表現。平面絵画に描かれたものを立体的にイメージし直して、それを正面から一方向に圧縮して扁平に変化させることで、半立体の空間として再現します。
2、層化(レイヤー)による奥行き表現。平面絵画に表された3次元的な遠近の違いを、いくつかの層に切り分けて表現します。
3、触覚的特性に考慮した形状のデフォルメ。元の絵を損なわない範囲で複雑過ぎる部分を簡素化します。『ヴィーナスの誕生』を例に挙げると、元の絵には花びらがたくさん描かれていますが、それをすべて再現してしまうと鑑賞の妨げになるので一部を残して省略し、言語的な情報で補っています。
4、補助教材の活用。視覚に障害のある方の大きな課題は「概念の形成」です。見えていればなんとなく把握できることがなかなか理解できません。たとえば「神奈川沖波裏」という作品には押送船という非常に特殊な船が描かれていますが、これは作品をさわっただけではイメージできないでしょう。ですので、なぜこういう形をしていてどういう役割をしているのか、といった背景情報を「手でみる絵」のほかにも、模型や地図、当時の物語など補助的な表現として用意する必要があります。これについては後ほど詳しく紹介します。
次に、「手で見る絵」に翻案する制作方法も簡単にご説明します。まずは粘土で原型を作り、その後石膏やFRP等で成形します。原型を作るのは、プロの浅彫りの彫刻家です。ですので、その彫刻家の個性が出ます。『ヴィーナスの誕生』や『モナ・リザ』は手でみる作品が複数作られていますが、ダイナミックに作る人もいれば非常に細かなところまでこだわって作る人もいて、一つひとつ印象が異なります。つまり、忠実に写真で撮るように模写したものではないのです。もちろん、元の絵らしさを損なわず忠実に翻案することは最大限尊重されています。
原型が完成すれば複製はたくさんできるので、私が運営する「手と目でみる教材ライブラリー」にも有名絵画の半立体作品が届きます。
6)レクチャー&ワーク:「手と目でみる教材ライブラリー」所蔵作品と補助教材にふれる
ここまでの話を踏まえ、大内先生はご自身がアンテロス美術館の東京分館として2014年に開設した「手と目でみる教材ライブラリー」の所蔵作品について、本サマーセッションで展示しているものを中心に、一つひとつスライドを用いながら紹介しました。
『モナ・リザ』『最後の晩餐』(共にレオナルド・ダ・ヴィンチ)、『神奈川沖波裏』(葛飾北斎)、『キリストの埋葬』(カラヴァッジョ)、『ヴィーナスの誕生』(ボッティチェリ)、『賢明の寓意』(ティツィアーノ)、『マラーの死』(ジャック・ルイ・ダビッド)、『フェデリコ・ダモント・フェルトロッコの肖像』(フランチェスカ)、『死せるキリスト』(マンテーニャ)、『姿見七人化粧』(喜多川歌麿)と豊富なラインナップです。『神奈川沖波裏』など一部の作品は、大内先生とアンテロス美術館とが共同で制作したそうです。また、補助教材についても詳しい説明がありました。
大内:補助教材のひとつに「立版古(たてばんこ)」があります。江戸時代後期から明治期にかけて流行ったおもちゃ絵の一種で、印刷された一枚の絵からパーツを切り抜き、設計図に沿って組み立てる一種のジオラマです。『神奈川県沖波裏』を例にすると、波がいくつかのレイヤーで表現され、奥に一番大きな砕け散る波のパーツがあり、さらに奥に小さな富士山があります。見えない人がさわると「富士山は大きいはずなのになぜこんなに小さいのか」という疑問が出てきますが、「距離が遠いから小さく描かれているのです」と説明することができます。
絵の中に描かれている船は「押送船」と言って、房総半島から日本橋の魚河岸まで魚介類を5時間ほどで運ぶ運搬船です。8人ほどで漕ぎ、黒船よりも速いスピードで走行できたと言われています。こうした船の形や構造がわかるよう、模型を制作しました。
また、神奈川沖から富士山を眺めるとはどういうことかをより具体的にイメージしてもらうために、立体地図も用意しています。神奈川沖と隆起した富士山をさわると、いかに遠いかが実感できるはずです。最初に「ふれる絵には教育的・認知的機能がある」とお伝えしましたが、単に絵画を鑑賞するだけでなく、地理感覚を身につけるなど、見えない人の世界が広がることにつながればと思い取り組んでいます。
『最後の晩餐』では食卓の模型を作り、テーブルの上にあるお皿や料理も再現しました。また、この絵を立体的に再現すると、細長い奥行き空間でテーブルはすごく手前に置かれていることが研究者により明らかにされています。そこで、空間自体の簡易模型も制作しました。
『姿見七人化粧』では、鏡の位置に取り外し可能なアクリル板を装着しました。まずはアクリル板がある状態で着物の後ろ姿や日本髪、鏡部分をさわってもらい、「鏡にはこの人の顔が映っているんですよ」と説明した後、アクリル板を外します。そうすると、鏡に映った顔にふれることができる。ちょっとした驚きのある仕掛けになっています。これによって全体像がイメージできるというわけです。
ただ、日本髪はレリーフをさわるだけではなかなかイメージしづらいので、日本髪のカツラも用意しました。これをさわったり、かぶってもらったりしてどうなっているのか把握してもらいます。また、子どもは着物がどんなものなのかわからないことが多いので、布で作った着物のミニチュア模型も置いています。作品を通して、日本の風俗に対する知見を深めることが狙いです。
大内先生から説明があった作品は、『モナ・リザ』『賢明の寓意』を除くすべての作品が会場内に展示されています(一部の作品はこのワークショップの時間のみ展示)。ここで、実際に作品にさわって鑑賞する時間が十数分ほど設けられました。レクチャー参加者は目を瞑り、作品を両手で包み込んだり輪郭をなぞったりしながら、思い思いに作品を鑑賞していきます。参加者の中には、手でふれてみながら首を傾げたり、目を開けて「なるほど」といったように頷いたりしている方もいました。
7)レクチャー:イタリアにおける「手でみる絵」の広がり
鑑賞の時間が終わり、参加者が席に戻ったところで、大内先生からイタリアの美術館における「手でみる絵」の普及状況について説明がありました。アンテロス美術館で制作した作品は、現在ではイタリアの一般の美術館でも展示されているそうです。
大内:最後の晩餐美術館には、この会場にある「最後の晩餐」と全く同じ半立体のレリーフが展示室内の作品近くに置かれています。ウフィツィ美術館は改革が進んでいて、翻案したレリーフではなく実物の作品にさわることができます。もちろん手袋をしたり担当者の立ち会いが必要だったり色々条件はつきますが、ふらりと立ち寄っても30点ほどの作品にさわれます。ほかにもさわりたいものがあれば、事前に申し込むと対応してもらえます。
バチカン美術館には『キリストの埋葬』の絵の横に半立体のレリーフが展示されていて、見える人と見えない人が同じ作品を一緒に楽しめるようになっています。ブレラ絵画館ではカラヴァッジョ『エマオの晩餐』の半立体のレリーフが展示され、じっくり鑑賞できるようレリーフの前にテーブルと椅子、音声ガイドも用意されていました。ミラノにあるガレリア・ディタリア美術館(Gallerie di Italia)はほとんどの作品に半立体のレリーフが用意されていますし、壁や天井など建物自体が絵画になっているマントヴァのテ宮殿も部分的に翻案しレリーフ化されています。
このようにイタリアでは多くの美術館で「手でみる絵」を楽しめるようになっていますが、嬉しいことに日本でも、「手でみる絵」を導入する美術館が現れました。以前からアクセシビリティに積極的に取り組んできた山梨県立美術館では、2023年4月から「種をまく人」のレリーフ展示が始まっています。
8)質疑応答
レクチャーはこれで終了。質疑応答の時間になると、たくさんの参加者から手が挙がりました。その一部をご紹介します。
参加者:アンテロス美術館で、子どもたちが「手でみる絵」をさわった後、粘土で再現するというお話が印象的でした。そのときは、さわって感じたことを自由に表現するのでしょうか、それとも忠実に再現するのでしょうか。
大内:基本的には、さわって得たイメージを忠実に再現します。その子どもの手先の器用さや技術力に左右されるところはありますが、この作業を通してどれだけきちんと伝わったかを確認するのです。視覚に障害のある人はこうした手でみる絵を鑑賞した際、制作した人や鑑賞の機会をつくった人に遠慮して、本当はよくわからなかったのに「わかった」、楽しくなかったのに「楽しかった」と言うことがあります。それを真に受けると改善につながらないので注意が必要です。ですので、どれくらい伝わったかを確認するために、本人が入力した情報を本人の力で出力してもらうことが大事なのです。
参加者:色の情報はどのような形で提供するのでしょうか。
大内:色を直接体験してもらうことは難しいので、生活の中で間接体験の質と量をどれだけ高められるかが大事です。たとえば普段から、「青い空」と言ったときに「清々しい」「気持ちが明るくなる」といった感性的なものを付け加えて説明する。そういう経験が積み重なっていくと、見えない人の中に「青」のイメージができてきます。ですから、周囲の人には、「見えない人に色を説明しても仕方ない」と考えずに、さまざまな形で色の情報を伝えてもらいたいです。そうしてその人の中に「青」のイメージができていれば、絵を前にしたときにどんな青なのか、明るいのか暗いのか、爽やかなのか冷たい感じなのかを伝えるといいと思います。
参加者:私自身は目を瞑って作品にさわってもいまいちよくわからなかったのですが、見えない方がさわるとどのように感じるものなのでしょうか。
大内:いまおっしゃっていただいたことは、その通りなのですが、私がいつも心配していることです。こうして会場に来てくださった方が、作品にさわってみて「なんだ、全然わからないな」「さわるというのは役に立たないんだな」と思ったとしたらとても残念です。
まずお伝えしたいのが、見える人がアイマスクなどをして一時的に見えない状態になってさわることと、見えない人がさわることとは全く状況が違うということです。それから、冒頭でお話ししたことの繰り返しになりますが、視覚はすぐに全体を把握できる一方で、触覚は時間がかかります。実際に、見えない方が私のライブラリーに来ると、1つの作品をたっぷり1時間かけて鑑賞します。部分部分をさわっていって、それをつなげて全体の大きな像を頭の中に描く。その作業を丁寧に進めていくことで、まとまったイメージが出来上がるのです。もちろん、触るだけでは解決できない課題もたくさんあります。大事な質問をありがとうございました。
(text by 飛田 恵美子 平原 礼奈)